ドルヲタジャニヲタとダイエット(服購入編)
6月末支給されたボーナス。
その半分は車検で消え、もう半分もライブ遠征費用でほとんど消える。残ったのは僅かばかりだ。仲間が減って心なし悲しげな顔をする諭吉さんを数人握りしめて、某百貨店に母と訪れていた。
母「そういえばあんた何kg痩せたの」
私「3kg」
そう、私は日々のウォーキングとむくみ取りのマッサージ、そして朝一のネコのポーズも継続したおかげで、2ヶ月で3kgの減量を地味に果たしていた。
母「それなのに尻はデカイまんまなのね」
これだからエスカレーターで母の前に立ちたくないのだ。憤慨気味に目的のフロアに到着して、普段はとてもじゃないが立ち寄らない値段のブランドショップへと足を進めた。ちなみに直近で購入した服らしい服はストッキング(3足1000円)の私が洋服を買う(しかも古着で無く定価)なんて久しぶりのこと。失敗はしたくない。
私は事前に、ジャニーズのライブにおいてどのような服装が適しているのかインターネットで調べていた。
『ジャニーズ ライブ 服』
すると出るわ出るわ、可愛く着飾った女の子達の写真。ちなみにライブTシャツを着た写真はあまり見つからなかった。某女子アイドルのライブに私が行った時にはその場で購入したTシャツを着たものだが。(なお女子ドルのファンは当然だが男性率が高く、熱が篭って蒸し返った暑さのコインロッカーの前スペースで皆推しデザインのTシャツに颯爽と腕を通していた)
しかし調べていくうちに分かった。
ジャニーズの場合、参戦服=デート服なのだ。
ファンたちは、その日その時間その瞬間の為だけに、素敵なお洋服を買い化粧をして、髪型も考えたりしてアクセサリーなんかも付けたりする。
女ドルヲタの私はときめいた。
可愛い。可愛すぎる。むしろ可愛く着飾ったファンを見たい。もはや目的がすり替わって来た気がしなくもないが、夢中になって検索を続けていた。
ライブTシャツを加工する子、頭に花冠を付ける子、ドレスを着る子、友達とおそろいコーデを楽しんでいる子。本当に人それぞれでしかもみんな細い。写真加工ありきとしても私より圧倒的に細い。泣きたくなったがぐっと我慢した。小太りな私でもファンサを貰えるように目立つようなかつ、似合う洋服はないのか。
そこで私が行き着いたのは、メンバーカラーだった。
自分の推しの色を身につけることで、ファンだと気付いてもらえるかもしれない。なによりも自分のテンションが上がる。体が細くなくともこれはできる。
そうして予習を済ませた私。普段だったら高い店に行っても挨拶さえされないことも多いが、今回私達親娘はやる気にみなぎっていた。金ならある。そのオーラが伝わったのか、若くて細くて可愛らしい店員さんが笑顔で近付いてきた。
店「いらっしゃいませ、気になるのがありましたらどうぞ試着も出来ますので」
私「アッ、ハッ、ハイッありがとうございます」
秒でどもってしまった。母が含み笑いをしているのを感じながら目で推しの色を探す。青と緑。青と緑。・・・無い。
そう、奇しくも私が推しているメンバー、伊野尾くんと圭人くんのメンバーカラーは非常に組み合わせが難しい色だったのか、この2色を使った色の服はなかなか見つからなかった。トップスとスカートで分けたとしても結構難易度の高い着こなしであり、私にはそんなセンスが皆無だった。しかも、致命的な程青が似合わない。
母「あんた何色で探してるの」
私「青と緑」
母「そんな田園風景みたいな」
私「」
母「お母さんもう、普通のワンピースでも可愛いと思うのよね〜、ほら、これとか可愛いじゃない」
そう言って母が勧めてきたのは、白いレースのワンピースだった。
確かにぱっと見た感じ可愛らしい。しかし可愛すぎやしないか。
20代も3年目になると、さすがに10代の時と比べて色々体にガタが来ているのだが、と母に訴えると、満面の笑みで返された。
母「これからの人生の中で1番若いのは今だから着なさい」
そうして試着室に通された私は、数分後軽く絶望していた。
なんだこのムチムチは。腕がパンパンだ。ここまで自分は酷かったか。
3kg痩せてもこのクオリティか。服が泣いている。
試着室の鏡はどう角度を変えても、現実しか映し出してくれなかった。
店「お客様いかがですか〜?」
私「あっ・・・その、たぶん、パンパンなんですけど」
店「えーそんなこと無いですよきっと!見てもいいですか?」
私「えっ、はっはい」
店「失礼しまー・・・アッ」
今アッって言ったなアッって。
私「ほら、腕とか凄いんですけど」
店「そ、そんなことないですよ」嘘つけ。
でもこれ以上可愛い店員さんを困らせたくなかった私は、近くでポケモンGOをしていた母を呼びつけた。
母「何それ!うわ!たぷたぷ!二の腕たっぷたぷ!」
私「・・・好きでたぷたぷじゃないんだけど」
母「でも服は可愛いから、痩せるのを見越して買う?」
私「えーいける?これ多分間に合わないよ・・・あと2週間後だもん」
店「なにかイベントがあるんですか?」
さっきまで困り切った顔をしていた店員さんも、私から醸し出される絶望の雰囲気を汲み取ったのか慌てて会話に参加してくれた。正直1秒でも早くワンピースを脱ぎたかったが、私は伏し目がちに答えた。
私「ライブなんです」
店「えっいいですね!なんのライブなんですか?」
どうしよう。これは言ってもいいものか。
経験上想定される返事は、「へぇそうなんですね」か、「あージャニーズですか」くらいだったから、また店員さんに気を使わせてしまうかもしれない。しかし黙っているのもおかしいので、私は極めて普通のテンションで答えた。
私「Hey!Say!JUMPです」
店「えっいいですね!私外れたんですよ」
・・・えっ?
店「もしかして福岡公演行くんですか?うわー羨ましい!じゃあ参戦服買うんですね!えーいいなぁ!」
これは予想外の展開だった。まさかの店員さんもジャニヲタ。
戸惑っていると、店員さんが私の服のタグを見て、これまた予想外の言葉を言ってきた。
店「あっこれSサイズですね!良かったらMサイズ探してきます!」
それはムチムチになるはずだ。よかった。私は悪くない。
とりあえずカーテンを閉めて、すぐさまSサイズのそれを脱ぐ。可哀想に少し伸びてしまったのではないだろうか。店員さんが戻ってくるのを半裸で待ちながら、どうして試着室は普段の倍ぐらい太く見えるんだろうなぁなんてことを考えていると、息を切らした店員さんの声。
店「あっあの、すみません、先程のワンピース、Mサイズが在庫が無くて・・・その代わり、すごくお似合いになりそうなワンピースがあるんで持ってきたんですけど・・・」
母「すごく可愛い花柄だよ、夏らしくていいかも」
私「あ、あっ、そう?じゃあ着てみようかな」
そうしてカーテンの隙間から差し出されたワンピースを私が試着する間、母と店員さんの楽しげに話していた。
母「Hey!Say!JUMPで誰が好きなんです?」
店「えっと・・・八乙女くんです」
母「へぇ!だいちゃんとヒルナンデス出てますよね」
店「はい毎週録画してます〜!もうすごくすごく大好きで!八乙女くんに会いに行きたかったんですけど2年連続で外れて・・・」
母「あら〜、そうだったんですね〜、八乙女くんはいつもだいちゃんに優しいから好きですよ」
なんだこの井戸端会議は。
ワンピースの後ろのチャックを閉め終え、盛り上がっている2人の前に姿を見せると、最初に試着した白いワンピースの時とは異なり、とても良いリアクションだった。実際、似合っていたらしい。値段も予算内ということもあり、そのまま会計することになったのだが、そこでもHey!Say!JUMPの話は続いた。
店「私、3年前から好きなんですけど、自分の名義で当たったことなくて・・・羨ましいです」
とてもじゃないけど言えなかった。
ファン歴半年の新参者が、福岡だけでなく10月の横浜公演にも行くだなんて。
私「店員さんみたいな可愛い子に応援された方が、きっとメンバーも嬉しいですよ・・・」
心の中で土下寝をしながら絞り出した私の言葉に、店員さんは綺麗に塗られたマニキュアの爪でワンピースを包みながら笑顔を浮かべた。
店「このワンピース着たお客様、すごく可愛かったですよ!これで、ファンサ貰ってきてくださいね!私の分まで!」
満面の笑顔に見送られながら、ショップバックを持つ私に母が言った。
母「よかったね、いいのがあって。でも、そのワンピース黄色いよね」
私「・・・それを言わないで」
八乙女くんのメンバーカラー、黄色のワンピースを手に入れた私は、店員さんのためにもダイエットを続けて、可愛くなることを決意するのであった。